■下町探偵社による捜査でわかった新事実
下町探偵社では神沼社長失踪事件について、所属探偵7名全員による浅草界隈の聞き込み捜査を行った。
その結果、浅草商店街を通行する地域住民から神沼社長の目撃情報をいくつか入手することができた。
目撃時間は全て夕方から夜にかけてであり、神沼社長は帰宅時に一人で浅草へ足を運んでいたことがわかった。今年の4月から浅草に通い始め、失踪するまでの間に最低でも8回は通っていた。どこか特定の店に立ち寄るわけではなく、街中を歩いては何かを探そうとしている様子であった。
手には古いブロマイド写真と暗号のようなメモを持っていたという。
「ブロマイド写真」は合計4枚で、写っていたのは、かつて浅草にあった劇場で行われていたレビュー公演に出演していた人気踊り子である。
リリー、ナンシー、マリリン、クリスティーヌ。彼女たちは今から60年前の1951年(昭和26年)に起きた「浅草踊り子連続殺人事件」の被害者4人であった。

■神沼社長の目撃情報
以下は、神沼社長が行方不明になる前に「暗号」らしきものを持って頻繁に姿を現していた場所である。
彼はここで何を調べようとしていたのだろうか……?
あの日は、水曜の夜でした、公園の掃除を終えて帰ろうとしていた矢先のことでした。男の人が私に近づいてきて、名刺を出して(神沼電機社長の名刺)、ちょっと尋ねたいことがあると言うのです。(神沼啓一郎氏の写真を見て)ええ。この男性に間違いありません。
60年前の浅草のことや、当時の踊り子のことを知らないかって言うものだから、私が浅草にやって来たのは20年くらい前なので他をあたって欲しいと言ったんです。そしたら、今度は暗号のようなものを取り出して、これはどう読んだらいいか、わからないか?
と言うんです。これそのものでなくても、何か に似たような文字に記憶はないか、とね。
とにかく私の周りには高齢者もいなければ、見せられた暗号にもまったく心当たりがなかったので、昔からこのあたりで商売している人を何人か教えてあげました。
そのとき、清家さんというご老人が、夜になると弁天山の公園周辺を柴犬を散 歩させているので話しかけてみたらどうか、彼は話し好きだから何か教えてくれるかもしれない、とアドバイスしておきました。
はい。私は言問通りから弁天山まで犬の散歩をしています。この写真の男性 (写真は神沼啓一郎氏)が夜の7時頃、私に話しかけてきました。
彼は私に写真を見せて「この踊り子知らないか」って。
だから「それ、踊り子連続殺人事件で殺されちゃったリリーって人でしょ?」 って言ったんです。そりゃあ、私も浅草の住人ですから、よおく覚えています よ。事件が起きたのは忘れもしない私が14の時で、通っていた中学でも事件の 話題で持ちきりでした。
友人と犯人を捜してやると息巻いて、探偵気取りで夜の仲見世通りを徘徊したこともあります。
彼は「この事件の謎を解かなくてはならない。この暗号を解く手がかりを捜しているんだ」と何かに突き動かされるように言っていました。私は当時、新聞などで暗号のことは知っていました。でもいったい何のことかわからなかったし、警察が長年かけても解けなかった謎じゃないですか。それで時効を迎えたわけで。だから「警察も降参した事件を、私のような庶民がわかるわけないよ」って言っておいたんだけどね。
この人、失踪してしまったんだね。心配だね。
だって、12年前にも同じように、暗号片手にこのあたりをうろついていた人が亡くなったりしたからね。